2009年01月27日

【ナイルの風 中東のまつりごと】(17)浸透するサウジ厳格主義

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■“ニカーブ摩擦”が進んだ
「政府のお達しはあったけど、現実にはニカーブをかぶった女性看護師の数は増え続けているわ」
エジプト厚生省は昨年3月、公立病院で働く女性看護師が、目だけを残して顔全体を隠す「ニカーブ」と呼ばれるベールを勤務中に着用することを禁止し、看護師の制服を定めるという新規則を発表した。だが、カイロ北方のナイル・デルタ地方にあるマンスーラ大学病院の看護師、シャイマー・アブドゥッラー(21)は、現場レベルでは政府の号令はほとんど無視されていると指摘した。

厚生次官のホダー・ザキーは発表当時、ニカーブは看護師と患者の意思疎通を阻害し、患者に不安感を与えるばかりでなく、手術などで看護師に求められる機敏な動きの邪魔になると説明していた。ただ、同省の統計によると、全国の公立病院で働く看護師9万人のうち、ニカーブ着用者はすでに1割以上の約9600人を占め、違反者の解雇など思い切った措置を取るのは難しい。“ニカーブ追放キャンペーン”は当初から決め手に欠けていた。

シャイマー自身は、「ニカーブ着用は宗教的義務ではない」との解釈を支持し、日常も髪を覆うだけの「ヒジャーブ」を着用している。政府の“命令”に反しても職場でニカーブを脱ごうとしない同僚については「顔を隠すのは聖典コーランが示した義務だとする『サラフィー主義』の説教師たちに脅かされ、最後の審判で神に罰せられるのを恐れている」と語る。

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キリスト教社会の欧州では2006年10月、当時のストロー下院院内総務が、ニカーブをかぶったイスラム教徒の女性との面会に関連して「自分と面会するときは顔を隠すベールをはずしてほしい」と発言したことから、英イスラム教徒社会で物議を醸した。だが、“ニカーブ摩擦”はイスラム教国のエジプトでも進行しているのだ。

06年には、イスラム教スンニ派の最高学府とされる名門アズハル大学のイスラム法学専門の女性教授が「ニカーブはイスラム法上の義務ではない」と発言してサラフィー主義者に訴えられた。男がニカーブを着けて女子寮に入り込むことを恐れた別の大学では、入寮者のニカーブを規制しようとしてイスラム組織が騒ぐ事件もあった。

シャイマーが言及した「サラフィー主義」は本来、イスラム教の預言者ムハンマドの時代、すなわちイスラム初期の理想的な状態への“回帰”を目指す思想潮流を指すが、エジプトでは、サウジアラビアで支配的な厳格主義の「ワッハーブ派」とほぼ同義語で語られている。

「ヒジャーブ着用は、イスラム法的にみて女性の義務という合意はある。しかし、ニカーブは砂漠の遊牧民(ベドウィン)の習俗にすぎず、コーランとスンナ(預言者ムハンマドの規範・慣行)に照らしても根拠はない」

アズハル大学イスラム・アラブ研究学部(女子部)教授、アーミナ・ヌサイル(69)はコーランの章句を挙げてサラフィー主義者の主張を退けたうえで「資金力の豊富なワッハーブ派系の団体が出資する宗教専門の衛星テレビ局が05年以降、いくつも開局し、同派の教義の浸透が急速に進んでいる」と語る。エジプトへの同派の浸透は、サウジなど湾岸地域のオイルマネーに引きつけられたエジプト人出稼ぎ労働者が急増したことに端を発しており、この20〜30年の現象だといわれている。

ところが、エジプト最大のサラフィー主義団体「アンサール・スンナ(スンナの支持者)」の代表、ガマール・マラクビー(53)は、ヌサイルとまったく同じ章句を挙げ「顔は女性の最も美しい部分であり、女性はそれを、夫や近親者だけにさらす。ニカーブは(男たちの邪悪な目から)女性自身を保護し、神に対してはいっそうの敬虔(けいけん)さを示すことになる」と、ニカーブの正当性を強調した。

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ニカーブやヒジャーブが女性を守るという議論は、女性の間からも、しばしば聞かれる。

だが、女性看護師のニカーブ着用問題に関しては、エジプト女性人権センターの代表を務めるニハード・アブルクムサーン(37)は「過ちから遠ざかるためにニカーブを着用するという個人の判断は尊重されるべきだが、個人の自由と社会的な必要性のバランスを取る必要がある。どんな場合でもニカーブは義務と硬直した主張を続けるサラフィー主義者には賛成できない」という。

同センターが昨年行った調査で、エジプト人女性の83%が何らかのセクハラ(性的いやがらせ)を受けたことがあるとのショッキングな結果が判明し、報告書は「女性を取り巻く環境は極端に悪化している」と結論づけた。これに対して、ムバラク大統領夫人、スーザンは「誇張されている」と反論して波紋を広げた。皮肉なことに調査結果では、セクハラ被害の割合はヒジャーブやニカーブの着用者と非着用者の間に差がなく、セクハラの観点からだけみれば「女性を守る」というサラフィー主義者の主張にも根拠がないことが分かった。=敬称略(村上大介)

【用語解説】ワッハーブ派
18世紀のアラビア半島に起こった急進的なイスラム教改革運動。既存の神学派や法学派、聖者崇拝などを含む神秘主義思想・哲学などの権威を否定し、聖典コーランなどの字義通りの解釈を通じて、「イスラム教の純化」を目指している。

ワッハーブ派というのは他称であり、同じイスラム教徒の間では自分たちを「ムワッヒドゥーン(一神教徒たち)」と呼びならわす。そこには、同派以外の一般的なイスラム教徒ですら、本来の純粋な教えから逸脱した“多神教徒”とみる意識がある。

ワッハーブ派は、アラビア半島の一豪族だったサウド家と結びつき、サウド家の半島支配拡大とサウジアラビア王国の建国に伴って、力をつけている。極端なまでに純化された思想は、現代のイスラム過激派にも影響を与えていると指摘される。


「肌をさらすべからず」ムハンマドの教え根拠
イスラム社会では、女性が髪を隠すスカーフ「ヒジャーブ」の着用が最も一般的だ。預言者ムハンマドが肌を露出した服装で現れた教友アブー・バクルの娘アスマアに対し、顔と手を指し、女性はそれ以外の肌をさらしてはいけないと諭したとされるハディース(預言者ムハンマドの言行録)が根拠となっている。

神の直接の言葉と信じられている聖典コーランでは「外に現れるもの以外は彼女らの美(や飾り)を目立たせてはならない。それからベール(ホムル)をその胸の上に垂れなさい」(御光の章)と言及されている。ベールに当たる「ホムル」というアラビア語は「ヒマール」の複数形。サラフィー主義者はこの部分に注目し、胸に垂らすためには顔もベールで隠すことになると解釈しているようだ。

現代の「ヒマール」と呼ばれる着衣は、すっぽりと頭からかぶり、ヒジャーブより厳格なものだが、顔は露出している。

目だけを出す「ニカーブ」はエジプトではまだ少数派だが、サウジアラビアなどアラビア半島では圧倒的な着用率だ。「ブルカ」はさらに目の部分も網で隠す。「チャドル」はペルシャ語で、顔だけを出して体全体を覆う着衣。
 

posted by ナナシ=ロボ at 00:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 中東・忘れられた場所で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そういえばどこで読んだか忘れましたが、エジプトで最近、医療関係者が入院患者に断食を強要するようになってきた、という話を読んだ記憶があります。
Posted by 富士南麓人 at 2009年01月27日 18:03
危険だから医師が警告っていうニュースが有りましたねぇ。元ソースではなく、あえて国+のスレを(笑)

【エジプト/イスラム】 医師が警告「病人への断食強要は危険 医療業界での原理主義台頭は危険な兆候」[061024]
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news5plus/1161711051/

┏┫ ̄皿 ̄┣┓<改善されるどころか増えてんのか、ムー
Posted by ナナシ=ロボ at 2009年01月27日 19:00
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