2008年09月22日

【ナイルの風 中東のまつりごと】(1)ブログが「沈黙の壁」破った

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■極限の閉塞感「もう、たくさんだ」
あの「事件」が起きたのは、2年前の10月24日。イスラム教のラマダン(断食月)明けの祭り、イードルフィトル初日の夜だった。

首都カイロ中心部の繁華街でお茶を飲んでいたエジプト人ブロガー、マーリク・ムスタファー(27)の携帯が鳴った。

「若い男たちが女性を手当たり次第に追いかけ回している」。車の中から事件を目撃した女友達が知らせてきた。現場のタルアト・ハルブ広場周辺まで、わずか5分。一緒にいた友人のブロガー、ワーエル・アッバース(34)と現場に走ったマーリクは、信じられない光景を目にした。

数百人の群衆が、逃げまどう通行人の女性たちを取り囲んで、体に触れようとしたり、服を引き破ろうとしたりしていたのだ。

「女性たちはタクシーの運転手に助けられたり、商店主にかくまわれたりした。服を破られた女性もいた。僕たちは最初、写真とビデオを撮っていたが、現場の手前で女性たちに近寄るなと警告を始めたんだ」
警官たちはなすすべもなく立ちつくすだけで、機動隊が出動することもなく、騒ぎは深夜まで4時間以上も続いた。2人はすぐに、この模様を自分たちのブログに動画付きでアップした。


イスラム教で「最も神聖な月」とされるラマダン直後の宗教祭に首都の真ん中で起きた“集団セクハラ暴動”は、政権にとって何とも都合の悪い事態だ。27年間続くムバラク政権下では「治安維持」などの理由で言論や報道の自由に一定の制限が課されており、事件について国営メディアは沈黙する。政府による介入の口実となることを嫌った独立系商業紙も一行も報じることはなく、事件は闇に葬られようとした。

ところが2日後、アラビア語衛星放送のトーク番組に生出演したあるエジプトの女性知識人が突然、マーリクらのブログに言及し、多くの国民が知るところとなった。当初は「何も起きていない」と否定していた政府も、ついに「事件」を認めざるを得なくなった。ブログがエジプトの報道統制に風穴を開けた瞬間だった。


「貧困と貧富の格差の拡大。言論の自由の封殺…国民の閉塞感は極限にきている。しかし、立ちはだかる強権体制の『恐怖の壁』の前に声を上げることができなかった。それを打ち破ったのが『キファーヤ(もう、たくさんだ)運動』だった」

運動創設者の一人、ジョルジュ・イスハク(68)は「2004年ごろから少しずつ空気が変化し始めた」と語る。キファーヤ運動は、ムバラク大統領が5選を目指した05年の大統領選挙を前に、現状に不満を持つ市民や政治グループが立場にとらわれず、横断的に声を上げたエジプト初の緩い市民連合体となった。

その新しさは、デモや集会が厳しく制限される中、「政府批判も首相まではOK。しかし、大統領批判はタブー」という政治風土を打ち破り、カイロ中心部で「反ムバラク」を唱えたことにあった。

01年の9・11(米中枢同時テロ)後、米国が中東民主化構想を掲げたことで、親米のムバラク政権も露骨に弾圧できなかったと指摘される。しかし、キファーヤ運動が、マーリクらブロガーに代表されるネット活動家とも結びついて、変化をもたらしたことは確かだ。

キファーヤ運動を含む雑多な勢力が呼びかけた今年4月6日の「全国ゼネスト」は、フェースブック(ネット上のSNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でエジプトのネット活動家が呼びかけたのが発端だった。

呼びかけはブログや電子メールで広がり、衛星テレビや独立系紙が報じ、一般大衆にも伝わった。参加者の実数は不明だが、この日のカイロの渋滞はやや軽減し、国営繊維工場で労働争議が続くカイロ北方デルタ地帯にあるマハッラ・クブラーでは労働者と警官隊の衝突に発展した。


悠久の歴史に耐えてそびえる巨大なピラミッドの国、エジプト。親米と独裁、民主化とイスラム、宗派対立など中東を彩る課題がここでも渦巻いている。微動だにしなかったスフィンクスは歩き始めるのか。エジプト社会の底流に吹き始めた微妙な変化の風を追う。=敬称略(村上大介)


【用語解説】フェースブックとSNS
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)とは、社会的なネットワークをインターネット上で構築するサービスで、コメントなどのコミュニケーション機能をもつ。広い意味ではブログなども含まれるが、一般的にはコミュニティー型の会員サービスを指す。フェースブックは、米国の学生向けにスタートしたが、2006年から一般にも開放された。日本では最大の会員数をもつmixi(ミクシィ)が有名。mixiは会員の紹介で入会し、各会員のページには、自己紹介、日記機能などがあるほか、さまざまなコミュニティー掲示板もある。
 
posted by ナナシ=ロボ at 19:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 中東・忘れられた場所で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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