2008年09月29日

【ナイルの風 中東のまつりごと】(2)「警官の暴行・拷問」ブロガーが告発

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■政府の油断をついた
「最近、治安機関も干渉してこない。彼らがあきらめたとは思っていないけど…」
エジプトの警官によるさまざまな拷問や暴行を告発する専門ブログ「エジプトの拷問」を運営する女性ブロガー、ノハ・アーテフ(24)は苦笑した。

ノハがブログを始めたのは、名門アインシャムス大学を卒業して間もない2006年。この年の11月、裸にされたバス運転手のむき出しの下半身に警官が虐待を加える映像がネット上に流出し、ノハもブロガー仲間から入手した映像を自分のブログに転載した。

別の運転手と警官の口論に巻き込まれ、警官に逆恨みされた事件で、映像は居合わせた同僚の警官が面白半分で撮影したものだったらしい。当局はこの映像を無視できなくなり、警官を逮捕せざるを得なくなった。

ノハはその後も、自白を強要する警官らによる拷問などの事例を地道に集め続け、国際人権団体からも注目されるブロガーとなった。警官の実名を容赦なく暴露し、場合によっては被害者たちの体に残る生々しい傷跡の写真も掲載する。告発するだけでなく、政府への補償請求など裁判情報も丹念に追い続ける。

「日常化している警官の暴行に黙っていられなかった。人権団体と連絡を取っているうちに、被害者の家族などから直接、情報が入るようになった。信憑性は、できるだけ関係者に会って確認するし、人権団体やマスコミが協力してくれることもある」


「警官の暴行や拷問」は長年、国民の口にのぼってきた。当局は今も、この問題を「単発の不祥事」と片付けようとするが、社会の暗部に切り込むノハのブログは問題が根深いことを白日の下にさらし、ノハ自身は治安機関から“危険分子”としてマークされることになる。

ノハや家族のもとには内務省管轄の治安機関から「会って話がしたい」「娘をだまらせろ」といった脅迫めいた電話が入るようになった。ノハは「両親に心配をかけるのが心苦しかった」と振り返るが、昨年、父親が病死して以来、不思議なことに治安機関からの直接的な接触は途絶えた。

英字紙デイリー・ニュース・エジプトの編集長、ラニヤ・マリキ(36)は「かつてのエジプトの常識ならもっと激しい“弾圧”があってもおかしくなかった。ノハが逮捕されなかったこと自体が驚きだ」と語る。80、90年代、エジプトを揺るがしたイスラム過激派を容赦なく弾圧したこわもての治安機関は、なぜ黙っているのか。

確かに当局はたびたびブロガーを拘束し、牽制を繰り返しているものの、起訴まで持ち込まれたのは1件だけだ。イスラム世界最古の最高学府の流れをくむアズハル大学でイスラム法を学んでいた男子学生が「自由な考え方を抑圧するアズハルなど、ごみ箱に捨ててしまえ」と強烈に批判し、昨年2月、宗教侮辱などの罪で禁固4年の実刑判決を受けたケースだ。だが、これも社会の建前となっているイスラム教を攻撃したという特殊性があったから可能だったとの見方もある。


「私自身も2年前は、貧しいエジプトではネットやブログは限られたエリートの道具にすぎず、そこでの体制批判の影響力は限られていると考えていた。政府も油断していたに違いない」。カイロ・アメリカン大学のマスコミュニケーション学部長、ナイラ・ハムディ(50)は、治安当局のブロガーへの“奇妙に緩い対応”の背景をこう分析する。

いまブログは政府系メディアが伝えない出来事を伝え、それを独立系商業紙やアラブ圏をカバーする衛星テレビが取り上げれば、たちどころに広まる。

こうした状況に危機感を抱いたのか、政府・与党の国民民主党(NDP)は6月、衛星放送やインターネットに網をかけるメディア規制法案を提出し、秋に国会審議が始まる。「社会の平穏、国民の団結、公共の秩序、社会的価値を攻撃」したジャーナリストには最高3年の禁固刑を科すことができるという、あいまいな内容だ。

これに対し、エジプトだけでなく他国の衛星放送で働く記者からも反発の声が上がり、カイロ市内の高級ホテルでシンポジウムが開かれるほど反対運動も盛り上がっている。

「10年前なら、反対の声も上げられないまま、一方的に決められていただろう。だが、いまかんかんがくがくの議論になっている。気がついてみれば、それ自体が大きな変化だ」。ハムディは、民主化に向けた社会の動きには「楽観的だ」と語る。=敬称略(村上大介)

■アラブ各国 ネット活用に警戒感
サウジアラビアなどの湾岸諸国では、宗教的な見地から、反イスラム教的内容を含むサイト、イスラム過激派系サイト、ポルノなどは厳しく遮断されている。経済発展が著しいアラブ首長国連邦(UAE)では、特別にネット監視を弱めた「特区」を設置し、外国企業を誘致している。だが、一般向けの規制は厳しいうえ、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を遮断。WIKIPEDIAによると、商業上の理由でスカイプなどのインターネット電話サービスにも規制をかけている。

一方、エジプトやヨルダンは比較的、アクセスの規制は緩く、エジプトからはイスラム過激派のサイトなどにもアクセスできるが、治安当局によって接続記録は監視されている。

アラブ連盟(加盟21カ国・1機構、本部・カイロ)情報相会議は今年2月、サウジ・エジプトの共同提案による衛星放送を中心とした規制案を採択。アラブ各国が衛星放送やネットによる情報流通の拡大を警戒していることをうかがわせた。
 
posted by ナナシ=ロボ at 20:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 中東・忘れられた場所で | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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