2020年06月11日

<3>宣言解除、揺れた戦略 感染防止か経済再生か - "熟読売"[検証・再生への道]から


政府は新型コロナウイルス対策で、有識者による「専門家会議」と「基本的対処方針等諮問委員会」を活用した。両組織はともに医療分野の専門家に偏っており、政府の戦略が定まらない一因となった。
新聞1.jpg4月30日、首相官邸で安倍首相や菅官房長官らによる新型コロナウイルス対策の連絡会議が開かれた。首相は会議後、5月6日までの緊急事態宣言の期限延長を記者団に表明することになっていた。

「今後の対策期間はどういう書きぶりになるの」
出席者の一人から、専門家会議が近く公表する提言についての質問が出た。原案に「1年以上は何らかの形で持続的な対策が必要」との表現があるのを知ると、官邸幹部は「国民はキレますよ」「破裂しますよ」などと声を上げ、首相も「なぜこんなに長くしなければいけないのか」と同調した。問題の表現は5月1日の提言から消えていた。

感染防止を徹底すれば経済が立ちゆかなくなる。弱った経済の再生を急ぎすぎると感染がぶり返す。政府が最も苦慮したテーマだ。

当初は、感染防止が前面に立った。政府が感染症の専門家会議を設けたのは2月14日のことだ。メンバー12人の大部分は医療分野の専門家が占めた。科学的知見を新型コロナ対策の参考にするためだ。

改正新型インフルエンザ対策特別措置法が3月13日成立し、政府は緊急事態宣言の発令や解除にあたって基本的対処方針等諮問委員会の判断を仰ぐことになった。諮問委は16人中、専門家会議の12人が全員参加していた。役割こそ違うものの、感染防止に重きを置く組織がもう一つ増えた。

一方、官邸は出口戦略として経済再生を強く意識するようになっていた。これを踏まえ、5月14日の会合から、経済分野の専門家4人を諮問委に加えた。

しかし、同じ14日、専門家会議は宣言解除の判断基準として「直近1週間の累積新規感染者が10万人あたり0・5人未満程度」などとする目安を示した。官邸の反対を押し切って公表したものだ。首相も「聞いた時、『えっ』と思った」と周囲に漏らすほど、「かなり厳しい数字」だった。

5月25日、宣言の全面解除の是非を論じる諮問委の会合が開かれた。脇田隆字委員(国立感染症研究所長)は「21日に諮問委をやったばかり。頻繁にやる理由は何でしょうか」と、開催日を当初予定の28日から前倒しした点をただした。解除を急ぐ官邸との温度差は明らかだった。

感染の第2波が来れば、宣言の再発令も視野に入る。「感染防止」と「経済再生」にどう折り合いをつけるか。政策の司令塔がバランスの取れた戦略を打ち出せる体制を整えなければ、第1波の時と同じ轍を踏むことになる。
ラベル:新型コロナ
posted by ナナシ=ロボ at 06:00| COVID-19 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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