新型コロナウイルスワクチンの高齢者接種を巡り、約9割の市区町村が7月末に完了できるとした政府発表に、波紋が広がっている。菅政権に「7月完了」を振りかざされ、やむなく応じた例が少なくない。地方行政を所管する総務省や都道府県、ときに国会議員までが束になり、なりふり構わず電話攻勢を掛けた実態など、やり口が次々とあらわになる。与党からも「9割は無理筋だ」(幹部)との声が上がる。
◆パートナー
「妙な電話が来ている」。4月28日の千葉県内の会合。ワクチン行政を担う厚生労働省ではなく総務省から、首長を指名し、接種完了の前倒しを求めてくることが話題になった。同じ時期、宮城県の自治体職員は「完了が8月以降のところが狙い撃ちされている」と取材に話した。中国地方の県関係者は電話口で「厚労省でなく、うちが動いている意味合いは分かりますね」と言われた。
関東地方の市長の元にも、総務省の複数の職員から電話が来た。最初、体よく断ると、次には局長から「自治体はわれわれのパートナーだと思っています」と前倒しへの同調を求められた。首長は「まずワクチンを供給して」と、やり返した。
連休が明けると、今度は県から「7月中に終えられないのか」とただされた。前後して、地元選出の自民党国会議員からも、せかす電話が入る。「首相は高齢者接種が終わらないと、選挙が打てないって言うんだよ」
◆「地方支援」
こうした取り組みが、全市区町村の86%に当たる1490自治体の7月完了発表につながる。現実は、予約殺到など混乱が続き、接種はまだ序盤だ。首都圏の県関係者は「今回の報道を受け、高齢者の間に『8月以降は接種を受けられない』との誤解も出ている」と指摘した。
菅義偉首相は満足しない。5月13日に、14%が完了できない点について「ショックだった」と悔しがってみせた。自治体関係者は「あえて失望感を示すことで、威圧している」と感じた。
首相が完了時期を言い出したのは、4月23日の記者会見。先立って自治体に強い影響力を持つ武田良太総務相に関与を指示していた。趣旨は「地方支援」。7月完了可とする自治体数は、厚労省の手元データで約650だったが、4月下旬時点でおよそ千。総務省の働きかけで最終的に1490になった。
◆数字合わせ
7月完了の割合が都道府県別で最低となった秋田県の佐竹敬久知事は「(他の自治体は)さば読みのところもいっぱいある」と話した。東北地方の市担当者は「秋田県は政権の意向を忖度(そんたく)せず、正直に答えただけ」と哀れむ。関東地方の市関係者は「無理は承知で、国には7月完了可と応じた」と周辺に漏らした。
「オセロの盤面が黒から白に、あっという間に変わるように」(ある県幹部)政権の意向に沿った回答が積み上がった。一端が明らかになる。群馬県太田市の清水聖義市長に、17兆円の地方交付税を配分する責任を担う総務省の交付税課長から電話があった。交付税増額の話かと頭をよぎったが用件は前倒しだった。
東北地方の自治体は居住する高齢者が全員打つとの想定をやめ、接種者数が少なくなる見直しをして前倒しに「成功」した。同様に想定接種率を引き下げる動きが出る。
ある市の関係者は、集団免疫獲得は急ぐ必要があるとする一方、政権の前倒しを迫るやり方には違和感を覚える。「高齢者不在の数字合わせをしている。喜ぶのは首相だけかもしれない」
posted by ナナシ=ロボ at 06:00|
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