首相の菅義偉が高齢者へのワクチン接種の「7月末」完了目標を掲げたことで、本格的に動き出したのが霞が関の官僚たちだ。なかでも地方自治を所管する総務省は、ワクチン接種を担う市区町村などのテコ入れに、総力を挙げて取り組まざるを得なくなった。
「早く打ってもらえるようにプッシュしろ」
菅は4月21日、総務相の武田良太を首相官邸に呼び出し、こう声をかけた。総務相経験があり、総務省の内情を知る菅は、早期接種に向け自治体への全面支援を武田に強く求めた。
総務省は職員約60人を、全都道府県の副知事や政令市の副市長に「マンツーマン」で割り当てた。多くの総務官僚は入省後、地方への出向を繰り返し、知事や議会関係者との人脈を持つ。土地鑑のある職員が自治体とのつなぎ役に起用された。
国と地方の連絡体制で調整も進んだ。5月初旬、総務省が関東地方のある自治体と連絡を取ると、ワクチンが想定通りには届かない見通しであることが判明。総務省が県と連絡をとり、同じ県内でワクチンを融通して事なきを得た。
武田も加わり連休返上で続いた電話作戦は、表向きはワクチン接種への懸念を尋ねる「御用聞き」(武田)だったが、菅が掲げた「7月末」完了を達成するため、「自治体を鼓舞する狙い」(首相周辺)もあった。
その努力の成果が出たのか、連休明けの5月12日、政府が公表した調査結果では、全1741自治体のうち、85・6%の1490自治体が完了見込みを「7月末」と回答した。4月下旬の約1000から大きな上積みとなった。
だが、「7月末」完了の定義があいまいで、戸惑う自治体も相次いだ。
12日公表の結果で「7月末完了」が県内自治体の56%と全国最低だった秋田県。秋田が出身の菅も、記者団の問いかけに「実はショックだった」と明かすほどだった。知事の佐竹敬久は「ご機嫌伺いで、サバを読んだところがいっぱいある。要は総理の顔を立てろということだ」と記者団に不満を漏らした。
「『7月末までに完了するよう調整中』でも、『7月完了』に含めていい」
東日本の県幹部は総務官僚の言葉に耳を疑った。自治体の見通しを聞き取るはずの総務省が、「7月末完了」の回答数を積み上げたい思惑が透けて見えた。結局、この県は「調整中」も「完了」と報告したという。
どこで「完了」とみなすかも、自治体の判断に委ねられ、混乱につながった。
大阪市は、2月に大阪府が実施したアンケートで、接種希望者の割合が約7割だったため、高齢者の7割の接種を終えた時点で完了とみなすことにしたという。一方、広島市は、高齢者全員が接種を終えた時点を完了と決めた。当初、完了見通しは「10月初旬」としていたが、後に接種回数を増やし、「7月末完了」を目指すと軌道修正した。
総務省は、ワクチンの打ち手確保にメドが立たなくても、「7月末完了」目標を掲げることを認めている。これには「『がんばります宣言』にどこまで意味があるのか」(千葉県知事の熊谷俊人)と反発の声もある。
政府が21日公表した調査結果では、「7月末完了」の自治体は、さらに増えて、92・8%にあたる1616自治体に達した。菅の号令に「効果があった」(首相周辺)とする評価もあるが、厚労省幹部は「7月末に『やっぱり間に合わなかった』という自治体が出てくるのでは」と危惧する。
「こっちだって7月末までに終わらせたい。とにかく、やるしかないやろ」
大阪府知事の吉村洋文は、府独自の接種会場を確保した。国に対し、市区町村に加えて都道府県にも接種を認めるよう提言したほか、接種前の問診をオンライン診療にすることも検討している。総務省幹部は「6月半ばにワクチンの在庫はあふれる。今こそ医療従事者や接種会場の確保を急がねば」と危機感を募らせる。
自治体は、菅の突然とも言える「7月末」目標に翻弄されながらも、住民の一日も早いワクチン接種を目指し、試行錯誤を繰り返す。残り2か月で、どこまで接種を円滑に進められるかは、自治体はもちろん、菅にとっても今後の政権運営における試金石となる。(敬称略)
posted by ナナシ=ロボ at 06:52|
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