首相の菅義偉が目標に掲げた、高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種の「7月末完了」の達成に向け、自民党も動き始めた。
「首長と医師会の関係が悪い所もある。場合によっては、みなさんが汗をかいてほしい。それぞれの地元を点検してもらいたい」
大型連休谷間の5月6日、自民党本部。党幹事長代理の林幹雄は全派閥の事務総長を前に、こう呼びかけた。円滑な接種を進めるため、衆院議員は選挙区内の自治体から、参院議員は支援を受ける団体などから要望を聞くよう求めた。
派閥を通じて議員を動員するのは異例だ。林に指示したのは菅を支える党幹事長、二階俊博だった。二階は7月末完了が困難な自治体が多いと報道で知り「本当にそうなのか。党でも調べろ」と林に命じていた。
地元回りは、秋までに行われる衆院選に備えるよう促す狙いもあった。
それは、岸田派を率いる派閥領袖である岸田文雄も例外ではない。
5月半ば、自民党前政調会長、岸田は広島市役所で、広島市長の松井一実と向き合っていた。
広島県は、無症状の感染者を発見するためのPCR検査など、先進的な取り組みで知られたが、5月初旬に新規感染者数が急増に転じ、緊急事態宣言が発令されるまでに至っていた。
そんな折、広島市中心部を自らの選挙区とする岸田は松井に面会を申し入れた。事務総長会議での各派閥への要請に応じて、助力できることを探るためだった。
松井がワクチン接種を担う民間の医療機関への支援拡充などを国に求めていると説明すると、岸田は「政府に伝える」と請け負った。
岸田は、昨秋の総裁選で菅に敗北した。9月末の任期満了に伴う次期総裁選への出馬にも意欲を示す。広島は4月の参院広島選挙区再選挙での敗北も記憶に新しい。それだけに派内では「広島市がワクチン接種で大きく遅れれば、会長も批判されかねない」(中堅)と懸念も出ていた。
岸田は6月2日、派閥の勉強会で、集まった当選3回以下の衆院議員10人を前に、こう呼びかけた。
「ワクチン接種の問題は、地元を歩くと必ず話題に上る。国民の最大の関心の的ではないか。選挙に向けて、理論武装してもらいたい」
7月に東京都議選、秋までには衆院選が行われる。永田町は今夏から一気に政治の季節に突入する。
ワクチン接種の成否は、自民にとって死活問題と言える。菅内閣の発足以降、感染状況が悪化すると、政府のコロナ対応への評価や内閣支持率が、ほぼ連動して低下しているからだ。
それだけに党内は世論の反応に敏感になっている。
5月21日、各派閥の事務総長らは、それぞれ自治体や団体からの聞き取り調査の結果を持ち寄り、ワクチン担当の行政・規制改革相の河野太郎に伝えた。会合終了後、河野が調査結果を記した紙の束を手に会場を去ろうとすると、慌てた二階派事務総長の山口壮が走って追いかけ、河野から資料を取り返した。
河野は歯に衣着せぬ物言いで知られる。河野が調査結果を公言すれば、首長の不信だけでなく、世論の批判も招く可能性があったためだ。
5月上旬、内閣官房参与だった高橋洋一が自らのツイッター上で、日本のコロナ感染者数を「さざ波」と表現し、批判が集中した。
「高橋って誰だ。注意して来い」
激高したのは、二階だった。このことを耳にした菅は、二階の側近議員に電話で「私から注意しますので」とわびを入れた。
ただ、ワクチン接種が本格化し始めると、二階は周囲にこう語り、自信ものぞかせている。
「日本は真面目な国。政府も自治体もきちんとやる。まあ見ていなさい」
野党はワクチンをめぐり、政府・与党を追及することが有権者に響くと踏む。
「ワクチン接種の混乱は菅内閣の人災だ!」
立憲民主党の国会対策委員長、安住淳は5月中旬、国会内の部屋のホワイトボードに大きく書き込んだ。5月上旬の読売新聞の世論調査では、菅内閣の不支持率は46%で、3か月ぶりに支持率(43%)を上回った。緊急事態宣言の発出や延長に加え、ワクチン接種の遅れに不満が募っているとみられる。立民代表の枝野幸男も「危機管理能力がない」と菅への批判を強める。
ただ、立民は昨年末の国会審議で、ワクチン承認に慎重な対応を求めた経緯がある。それにもかかわらず、終盤国会で「接種の遅れは政府の失策」と追及を強めており、党内ですら「有権者に『変節』と非難され、選挙に響くのでは」(ベテラン)との懸念がくすぶる。
ワクチンが国民のどこまで行き届くのか。衆院選の勝敗を左右する大きなカギになるのは、間違いない。(敬称略)
posted by ナナシ=ロボ at 21:00|
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